熱々の焼き立てに、はしを入れると、身がほっくりとはがれてくる。そのやわらかい身を口に運ぶと、塩加減はきつからずゆるからず、加えて独特の香ばしい香りと甘みが広がる。それが、橘水産の干物だ。
同社は、社長の橘保彦さん(62)、妻の摂子さん(56)、長男の泰弘さん(33)、二男の泰正さん(30)の4人が中心となる家族経営だ。所在地は静岡県沼津市。干物生産量日本一の街である。橘水産では、原料の魚は脂ののりや味のばらつきを抑えるため、近海のものを旬の一時期に大量に仕入れる。保存するのはマイナス40℃の冷凍庫である。この温度だと、鮮度がより長期間保たれるという。こうして保存しておいた魚を、注文に応じて“開き”に加工していく。
工程は、まず泡の出る水槽で、魚の身を痛めないように解凍する。それを、一尾一尾手開きしてから、血などを洗い流す。アジはジェット水流で洗うのだが、身のやわらかいカマスなどは、身が崩れるのでブラシで洗う。次に塩水に漬けて塩味をつける。
「使う塩はミネラル分が豊富な沖縄の天然塩です。化学調味料、着色料、酸化防止剤などは、もちろん使っていません。とにかく食品ですからおいしさと安全を基本にしています」と泰正さんは言う。この辺に橘水産ならではの“こだわり”がうかがえる。 |